ブレイヴは過からすれ違いに、天の伝言を受け取る。カサッと軽い音を立てて開けたそれには、現状を報告せよと一文だけ書かれていた。ため息をつきながら、それを隣にいた山羊の口に寄せる。すると音を立ててそれを胃へと送り出していた。その様子を見ながら、風の精霊に準備に抜かりはないという天への伝言を託す。
目の端に過を追うワーチの姿が映る。過は気づいていない。ため息をついて、山羊の背中を叩いた。すると過の方へと走り出す。その間に敷物を道端にしいた。リュートも取り出す。
なんだなんだ、と人が集まりかけてきた。リュートを手にして、二三曲披露した。目の前に置いた器の中に軽い音を立てて硬貨が落とされていく。
その人垣のむこうに見えた集荷場にワーチがいるのを確認してから、言った。
「さて最後の歌です」
口からこぼれだしたのは、こねずみが母ねずみと話す歌物語だ。これはブレイヴがつくった歌だ。一人の女性に向けて。彼女は、前向きで勝ち気で、そして知りたがりだった。このこねずみのように。
(サーチェス、知ってたか。あなたの娘はとてもあなたに似ている)
知りたがりなところも、勝ち気なところも。
《――こねずみはちょろちょろ走って“出たい、出たい! 外に出たい!”……》
彼女も同じだろう。真実を知りたくて、外へ出たがる。なら僕はその手助けをしてあげよう、と心の中でごちた。
「ありがとうございました」
頭を下げると、一層多くの硬貨が飛んできた。すべてを受け取る。
リュートと硬貨をしまってから、立ち上がった。
最後にサーチェスが残した言葉が耳を通り過ぎる。
<ブレイヴ、お願い。私の娘を、ワーチを殺さないで>
あぁ、殺さないよ。あなたの願いだから。
そう心の中で答えながら、ワーチへと近づいた。
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